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2005年 衆議院選挙 夕凪

挨拶まわりの途中のことだった。

「この家の前でユーターンさせてもらいましょう」と言って少しだけ、門の前で車は向きを変えて、そして何事もなく出
発するはずだった。

そこで突然エンジン音がぴたりととまってしまった。

秘書のTさんがあわててキーを回してたが、何度試してみても車はウンともスンとも言わない。暑さのせいだろうか。バッテリーが完全にあがってしまっていた。

30度を超える気温の中、西大寺のまったく知らないお宅の玄関前の道路で動けなくなってしまったのだ。日中の疲れもあって神経がくたびれて果てていた。

たったこれだけのことで、もう泣きたいような気分だった。

「どうしたね。」中から人がでてくる気配がした。60代前半くらいの温厚そうな男性だった。

「エンストかね。ギアをかえてバックで入ってくることはできよう。ここは公道だから、ここに止まってるわけにもいかん。うちの庭にでもしばらく止めておかれえ。」

ギアをチェンジしてニュートラルにすると、その男性も車を押して庭先まで車を移動するのを手助けしてくれた。その上、庭にあった大きな納屋からケーブルを取り出し、ご自分の車と事務所の車をつないでくれた。

T氏がお礼を言って、事情を説明した。

「くましろ昭彦事務所」と書かれた名刺を見ても、その優しそうな男性は、まったく態度をかえることはなかった。

「今日みたいに暑いと、挨拶周りもえらかったろう(大変だったろう)。もう仕事が終わってるのなら、先をいそぐこともなかろうが。疲れただろうから、狭い庭じゃがゆっくりしていくのがええ。わしらは夕飯の支度までに買い物ができればいいんじゃから」

しかし、外はまだ明るいものの、時刻は4時をとうにまわっていた。
大きな納屋のある広いお庭とはいえ、車庫のまん前にでんと止まって動かなくなってしまった私達の車が迷惑でないはずがない。T氏も私もひたすら恐縮した。

納屋の近くにいた小さな白い猫が、私の足元にすり寄ってきた。私も猫好きなのでつい手をのばして猫の頭をなでると、おじさんは話しの種ができたせいか、相好を崩した。

「可愛いじゃろう。いつの間にかここにおって、知らん人にもようなつきよる。」
遠い昔に読んだ「赤毛のアン」の「マシュウ叔父さん」を思いだした。

優しい訥々とした話し方をされる方だった


私は少し気が落ち着いて、あたりの風景を見回す余裕ができた。家の前の細い道路を挟んで、目の前には豊かに実った水田が広がっている。一面に広がる緑の稲穂が風にそよぐ中、雲ひとつない青い空に白い三日月がぽっかりと浮かんでいるのが見えた。

何もかもがとても平和で、波だっていた心が静かになっていくような光景だった。家の中からは、お孫さん達だろうか、小学生の女の子達の元気な声やピアノをでたらめにひく音が、とぎれとぎれに聞こえてくる。殺伐とした選挙の世界からまるで別世界に来たようだった。


不思議な気持ちだった。

これまで父や母が身を粉にして懸命に支援してきた「先生」と呼ばれる人たちが次々に手ひどい裏切りをする中、
私達はこうして縁もゆかりもない方の庭先で温かく迎えられている。

本当に「偉い」、というのは一体何だろう。

心の温かさだろうか。豊かさなのだろうか。よくわからなくなった。

本来誰もがこうして他人に対するやさしさをもっているはずなのに、それがこの選挙では見えにくくなっているのだろうか。

30分ほどして、車のエンジンは再びかかるようになっていた。


御礼を言って再び車を事務所に走らせた。夜の挨拶周りの時間がせまっていた。

まだ明るい空にぽっかりと浮かんでいた、白い月が不思議に心に残っていた。

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